Polaris

姉妹喧嘩

 表向きは平和になった世界でも、必ずどこかには争いや悩みが転がっている。

「そんな顔してると、眉間の皺が取れなくなるわよ」

 メルティーナがからかいついでにデコピンをかます。長いこの世界の歴史の中で、デコピンをかまされても怒らない創造主は彼女が初めてだろう。相手が元・エインフェリアだからというのもあるのかもしれないが。

 その様子を見て少し苦笑しながらも、アリューゼはレナスの悩みに共感した。

「ま、そんな顔もしたくもなるな。いつまで経ってもあの様子じゃあ」

 その言葉に被さるように、神殿の方で爆発音が聞こえた。地が揺れ、鈴蘭の花が宙に舞う。

「でもねぇ。ココに逃げてても、収まらないわよ」

「…わかってるわ」

 今日こそは、終わらせなければ。

 毎日思っていることをもう一度自分に言い聞かせ、レナスは重い腰を上げた。ヴァルハラの小さな戦地へ行くために。

 今日も玉座の間で剣が舞っていた。建物や調度品はエーテルコーティングが施されているので壊れることはないが、それでも地を揺るがし物を倒しの乱戦は凄まじい様子だ。

 どうして玉座の間に入るのに―――滅多に座ることなどないが、自分が座る場所なのに―――鎧を纏わなければならないのかと、レナスは溜め息が出た。その後ろから、好奇心でやってきたメルティーナと、なんとなく自分にも関係があるような気がするアリューゼがついてくる。

「今日は一体どうしてなの?」

 レナスの声に、すぐに近寄ってきたのはフレイだった。すぐ目の前にフワリと着地する。

「レナス、どこへ行っていたの!? この二人を放っておいては駄目よ!」

「あなたの方が、私達とは面識があるでしょう」

 ヴァルキリーは転生を繰り返しているので、面と向かうことは滅多になかった。特殊な場合を除いては。しかし、その特殊な場合も数えるほどしかなかったし、今のように常に三人居ることは、この前までは考えられなかったのだ。

 だから、いくら姉妹でも、関わることが多かったのはフレイだ。

「アーリィもシルメリアも、昔から苦手なのよ」

 どうにもとっつきにくいアーリィに、案外自己主張が強いシルメリア。フレイとは相性が悪い。

「レナス!」

 こちらに気づいたシルメリアが、アーリィとの激戦を中断してツカツカと歩み寄ってくる。綺麗な金の髪を振り乱し、物凄い形相だ。女神というよりは鬼神に近い気がする。

 アーリィはというと、近寄ってくることはせず、フンと鼻を鳴らしてレナスを睨みつけた。

「どこをほっつき歩いていたの? 一応は主神になったのだから、ここにいなくてはいけないのに」

 確かにそうだ。仕事はしてほしい。と思ったフレイだが、レナスに小言を言う前にシルメリアが口を開いた。

「ここにいなければならない理由などないわ! レナスには、玉座からミッドガルドを探り見て汚い戦略を立てる必要などないのだから!」

「なんてことを!! シルメリア! たとえもうお戻りにならなくても、オーディン様は私達の父なのよ!」

「別に、オーディンのことだなんて言ってないわ」

 シルメリアの挑発に、アーリィが怒りの形相で駆け出す。シルメリアも剣を構えるが―――――。

「「あ」」

 メルティーナとアリューゼが口をぽかんと開けた。懐かしい場面を見たと思ったからだ。

 不死者の相手をするのが面倒になってくると、今のように、すぐに晶石を使ってしまう。アーリィとシルメリアが晶石に捕らえられたことで、玉座の間は途端に静かになった。

「…どうすんの? すぐにまた暴れだすわよ」

 晶石は永遠に保てるわけではない。すぐに割れてしまう。

「今のうちに、片方をどっか遠くに運んでおくか?」

 確かにそうすれば、とりあえずは収まるかもしれない。しかし、レナスは首を振った。

「気が済むまで戦わせるしかないわ。死なない程度にだけど」

 毎日のように二人は喧嘩をする。オーディンに従順だったアーリィと、オーディンに反抗的だったシルメリア。話題の中心となる人物はもうこの世にいないが、それでも、喧嘩の種は尽きることなく沸いて出てくる。

 過去にあったこと。レナスがのんびりと人間をしていた頃のことは、双方の話を聞いたので知っていた。しかし、当事者ではないので口出しはなかなかできない。

「無理矢理に周りが止めても、収まるものではないわ。剣を交えることでお互いに何かを理解してくれると、私は信じている」

「レナス…それなら、どうして晶石を?」

「…条件反射よ」

 さては、任務中に敵から逃げてたわね、とフレイは咎めたくなったが、やめておいた。血気盛んな二人の戦乙女を見た後だったので、一人くらい違うのがいて良かったと思ったのだ。

「ヴァルキリーはいつもそうだな」

 ジェラードの次にエインフェリアにされてから、ずっと彼女と一緒にいたアリューゼは、今までのレナスの行動を振り返って考えた。どこかのんびりしているというか、傍観的というか。

「ま、いいけどね。次が大変なんじゃないの? ヴァルキリー」

 苦労するわね、とメルティーナが肩を叩く。同情しているのか面白がっているのかわからないが、確かに大変だ。

 音を立てて晶石が崩れる。

「「レナス!!」」

 束縛されたことに二人が怒り、光子やら剣やらを飛ばしてくる。レナスはそれをかわしながら、剣を抜いた。

 人数を増やして乱闘は再開され、フレイは思わず溜め息をついた。助けを求めた自分が馬鹿のようだ。

「ヴァルキリーは、同時に二体以上存在すべきではないのね…」

 今も昔も。

「…派手だなぁ」

「そろそろ、退散したほうがよさそうよね」

 神技まで繰り出し始めたのを見て、二人は火の粉を被らないようにその場を後にした。

 衝撃で地が揺れる。

 ヴァルハラから争いが消えるのは、まだまだ先になりそうだった。

 2006年07月02日UP

 まだVP2の攻略は途中までなので、最後がどうなるのかわかりませんが、きっと仲悪いままなんだろうなぁと色々想像してみる。