皆でお芝居「12の月の贈り物」
むかしむかし。あるところに、一人の母と二人の娘が住んでいました。
母親のプレセアは実の娘であるプリメーラばかりを可愛がり、血の繋がっていない娘のヒカルには辛くあたりました。
プリメーラは一日中遊んで暮らしているのに、ヒカルは朝から晩まで働かなくてはなりませんでした。水を汲んだり、薪を割ったり、掃除をしたり。お料理だけはできないので、仕方なくプレセアがこなしていました。
そして、ある寒い冬の日のことです。プリメーラが言いました。
「私、スミレの花が欲しいわ。服に飾りたいの」
妖精のその小さな体にスミレの花は大きすぎるような気がしましたが、プレセアは言いました。
「ヒカル、森へ行って、スミレを摘んでくるのよ」
「でも、今は12月だよ? スミレなんてないんじゃあ…」
「摘んでこないと、折檻よ」
その笑顔がとても恐かったので、ヒカルはそれ以上口答えはせずに家を出て行きました。
外は一面銀世界。今も吹雪いていて、コートも着ずに家を追い出されたヒカルは凍えながら森の中へと入ってゆきました。
「こんなところに、スミレなんて咲いてないよ…」
その寒さについに倒れてしまいそうになった時です。突然、向こうのほうにちらちらと燃える赤い火が見えました。ヒカルは力を振り絞り、その火を目指して歩きます。
近づいてみると、それは素晴らしく大きな焚き火でした。12人の人々が、それを囲んで座っています。
彼らは、1月から12月までの、月の精達でした。
「あの…ちょっとだけ、焚き火に当たらせてほしいんだ」
ヒカルは思い切って頼みました。すると、青い長い髪をした6月が、すぐに彼女を暖かい焚き火の側へ座らせてくれました。
長い杖を持った、長身で黒い髪を持つ12月は、その青い瞳でじっと少女を見つめていましたが、やがて口を開きました。
「…なぜ、こんな所にいる」
「そうよ。しかもこんな薄着で、風邪ひいちゃうわ」
6月も、心配そうに声をかけてくれました。
「スミレを摘みに来たんだ。摘んで帰らないと、きっと折檻されちゃう…」
折檻がよほど恐ろしいものなのか、それとも寒さからなのか、ヒカルは体を震わせました。
彼女の話を聞いた12月は、それをとても可哀想に思いました。というか、ちょっぴり一目ぼれでした。
12月は黙って長い杖を3月に手渡しました。
「いいんですか? そんな簡単に」
そう尋ねても黙っている12月を見て、訳知り顔をした3月はくすくすと笑いました。
「可愛いお嬢さん、大丈夫ですよ」
にっこり笑った3月が杖を振るうと、たちまち炎が舞い上がり、雪を溶かし始めました。
「すごい…」
あっという間に木々からは新芽が萌え出て、地面も薄緑に染まり、タンポポや、スミレの花が咲きました。
「さあ、どうぞ。急いでくださいね」
「うん。ランティスとイーグル…じゃなかった、12月さんも、3月さんも、ありがとう!」
地面に咲いたばかりの花に負けない笑顔の花を咲かせて、ヒカルは急いでスミレを摘みました。
そして何度もお礼を言いながら、スミレを抱え、家へと帰っていきました。
スミレの花束を持って帰ってきたヒカルを見て、二人は驚きました。プリメーラはお礼も言わずにスミレを受け取ると、喜々として服に飾り始めました。あんまり花の量が多いので、服に飾るというよりは、スミレが服のようでした。
次の日、プリメーラはまた無理な我侭を言いました。
「苺が食べたいわ。とっても甘いやつ」
そうしてまた、ヒカルは家を追い出されました。
フラフラと雪の森の中を彷徨い続け、凍えて倒れそうになった時、突然、赤い火が視界に入りました。
12の月の焚き火です。ヒカルは一生懸命足を運び、なんとかそちらへ辿り着きました。
ヒカルが事情を話すと、12月は一も二もなく長い杖を6月に渡しました。
6月の杖を合図にたちまち雪は溶け、その場所にだけ6月の季節がやってきました。
「さあ、急いで摘んで」
草の中に現れた真っ赤な苺の実を摘むと、ヒカルはお礼を言って家へと帰りました。
冬の森で苺を摘んできただけでも驚いたことだというのに、それはとても甘い物でした。二人はヒカルから苺を取り上げると、彼女には一粒も与えず、全部食べてしまいました。
そして、また我侭を言いました。今度は林檎が食べたいと言うのです。
精魂尽き果てるまで雪の中を彷徨ったヒカルは、再び12の月の焚き火を見つけました。
「お願いだ。もう一度だけ助けてほしい…」
もう一度と言わずとも何度も助けてくれそうな12月が、三度、長い杖を他の月へと手渡しました。
「よっしゃ! まかしとき!」
妙な言葉を話す9月が杖を一振りすると、炎が燃え上がって雪を溶かし、すぐに黄色い落ち葉が散り始めました。
その辺りだけ、秋になったのです。やがて、大きな木に真っ赤な林檎がなりました。
「ちょい待ってや。木揺すったるしな」
背の低いヒカルには届かなかったので、9月が何度か蹴りを入れてくれました。
「本当にありがとう」
寒い中を歩き回ったのですでにくたくたのヒカルでしたが、しっかりお礼を言うと林檎を二つ拾い上げ、家路を急ぎました。
今度こそは手ぶらで帰ってくると思っていたのに、林檎を持って帰ってきたその姿を見た二人は呆れ返りました。
そして林檎を一口齧ってみて、今まで食べたことのない美味しさに驚いてしまいます。
「ちょっと! どうしてもっと取ってこなかったのよ~! いいわ、自分で全部取ってくるから!」
その小さな体なら、林檎など半分でも多いくらいだろうに…と思うのに、プリメーラは大きな袋を抱えて家を飛び出しました。
森はすっかり雪に埋もれて、何もありません。凍えきって倒れそうになった時、プリメーラも12月の焚き火を見つけました。「あたらせて」の一言も言わず、慌てて近寄って手をかざします。
「何の用だ」
「何をしようと、私の勝手でしょ」
十分温まったプリメーラは、さっさと飛び立ってしまいました。それを見た12月は顔をしかめると、長い杖を振りました。
焚き火が消えました。冷たい風が吹き、雪の量が増し、辺りは吹雪に覆われました。小さい体のプリメーラはひとたまりもありません。あっというまに、雪の中に埋もれてしまいました。そして、娘を心配してやってきたプレセアもまた、深い雪の中に閉じ込められ、それっきり帰ってはきませんでした。
そうしてやがて春が来ると、たった一人で住んでいる女の子のところにも春が来ました。
3月のように美しい若者と結婚したヒカルは、いつまでも幸せに暮らしました。その家は一年中花が咲き巡り、10人程のお客さんが訪れる、少し変わったところだったそうです。
* * *
「え? 僕と結婚するんですか?」
一通り終わった後に、イーグルは首をかしげた。問われた光も、首をかしげ返す。
「そうみたいだ」
「まぁ、僕は構わないですけど」
にっこり笑ってみせる彼は、隣でいつもより若干暗い親友に気付いているのかいないのか。
「ど、導師、私、この役はちょっと…」
こっそり耳元で、プレセアは「ランティスの視線が恐いんですけど」と付け足した。
「プリメーラは妖精なんだし、12の月に回った方がいいんじゃない?」
海の言葉に、風が苦笑する。サイズ的に、どう見ても無理がある。
「ていうか、光も変えた方がいいかもね。ランティスに何人殺されるかわからないし…3月をフェリオにして、風、やってみたら?」
「わ、私はお芝居はちょっと…ナレーターで精一杯です。海さんがやってみては?」
「駄目だ。ウミはそんな柄じゃない」
「ちょっと、どういう意味よ!」
身長差でクレフを威嚇するが、彼はというと、特に気にとめてはいないようだった。
「いっそ、別の芝居にした方がええんちゃいます?」
カルディナの提案に、クレフはじっと考え込んでしまった。
「ランティス? 具合でも悪いのか?」
「…いや」
2007年02月14日UP
絵本『「12のつきのおくりもの」 (再話)内田莉莎子 (画)丸木俊 福音館書店』を参考にさせていただきました。スロバキア民話らしい。
ちなみに、12月が一目ぼれなんて設定はランティスだから勝手に作っただけです。本当はおじいさんらしい。