Polaris

壁ふたつ

 光の「大丈夫」は当てにならない。

 ちょっとくらい熱があっても、血まみれでも「大丈夫だよ!」なんて平気な顔するんだもの。

 ついこの間、私の家で遊んだ時もそうだった。暗くなってしまったからママの車で送るって言ったのに、「大丈夫だよ、駅まですぐそこだし」なんて。心配して追いかけていったら、案の定、怪しい男に声をかけられてきょとんとしてた。あのお兄さん達が過保護になるの、何だかわかる気がするわ…あ、でも、過保護だから光は誰も疑わない子に育ったのかしら?

「でも海さん…そんなに心配なさらなくても、大丈夫だと思いますわ」

「風とフェリオなら私は何も言わないけど、相手があの人よ? 怪しすぎるったら」

「確かに、あまり詳しい事情をお聞きしたことはありませんが…」

「でしょ? まぁ、仮に何もなかったとしても、それならそれで単に話をするのもいいし。それより、フェリオと約束してるんでしょ?」

「ええ、ですが…」

 まだ心配そうにしている風に別れを告げると、私はさっき光が消えた方へと歩き出した。

 光はいつも、セフィーロに着くとすぐにオートザムのイーグルが眠っている部屋へお見舞いに行く。柱の試練の間に色々話をしたみたいで、敵だったことなんてすっかり忘れたみたいに仲良くお喋りしてるみたい。何度か私も話したことはあるけど、印象としては「どこか腹の底は知れないけど、とりあえずは優しそうな人」ってトコかしら。とりあえず、悪い人じゃないっていうのは分かったから、この人のことは一旦置いておく。

 私が気になるのは、ランティスの方。

 イーグルに会いに行ったのに、広間に戻ってくる時には必ずランティスと一緒。あの二人は親友だそうだから、お見舞いに行った時にランティスが部屋に居るってだけならわかるんだけど…わざわざ光についてくる必要はないのよね。

 あの威圧的な服装から一変して真っ白な服になったり、話しかけても最低限の返事しか寄越さなかったり、クレフの弟子だったり、ラファーガと険悪だったり、かと思えばなぜか光と親しそうだったり。とにかく喋らないから謎は多いし、どんな行動をしたって不可解に見えてしまう。

 光はあのとおりで鈍感なところがあるから、こういう時こそ私がしっかりしなくっちゃ。

 まぁ、何にしても、光の気持ち次第なわけだけど…。

 海さんは、どうやらランティスさんに警戒心を抱いておられるようです。

 海さんはとても上手に自分の気持ちを表現なさる方ですから、そういった点ではランティスさんと正反対の位置ということになるのかもしれません。

 ランティスさんは、確かに容易には理解し難い方かもしれませんが、素直な方だと思います。ただ、表現することがあまり得意ではないようですけれど。

 私はどちらかというと、イーグルさんの方が気になってしまうんです。とても親しみやすい方…かと思えば、どこか他人と線をひいてしまっていると感じることもあります。けれど、ふと―――私達三人でお伺いした時、光さんに声をかけられる時はそのような印象が和らいでいることに気付くんです。時折光さんに投げかける、意味深な言葉も気になりますし…。

「どうした? まだ心配してるのか?」

 先程海さんとした会話を、フェリオに打ち明けました。私がそのことでまだ考えていることに、フェリオは気付いたのでしょう。

「フェリオ…ランティスさんとイーグルさんは、貴方から見てどのような方々でしょう?」

「そうだな…ランティスは、何か考えてそうで何も考えてないような気がするな。イーグルは腹の底が知れない。ま、似たもの同士って感じだな」

 似たもの同士。まだ何とも言えない段階なのでしょうか。

 問題は、光さんのお気持ちですから…。

『ヒカル』

「え、なあに?」

『ヒカルは、一番好きな人とかいるんですか?』

「えーっとね…海ちゃんと風ちゃん!」

 もう少し待つか、と少女には気づかれずに、決心する者が二人。

 厚い壁は、そう簡単には壊れそうにもなかった。

 2008年01月21日UP

 愛情より友情、というお年頃。