Polaris

隠し子騒動

 イーグルの体は眠りについている。したがって、特別な事情がなければ部屋にいるし、そこで暇を持て余している。

 それを皆承知しているものだから、聞いてもらいたい話があるとここにやってくる者も少なくなかった。

「酷いと思わへん? うち、全然聞いてなかったんよ」

『ええ……まぁ……』

「こんなん、チゼータやオートザムでは考えられへんやろ?」

「すまない、カルディナ。他国ではおかしなことだとは知らなかったのだ」

 今日はカルディナと、それを追うようにしてラファーガがここを訪れていた。普段であれば歓迎するところだが、今日は内容が内容だ。

 そろそろ、余所でやってほしい。

 正直イーグルはそう思っていた。というのも、あまりに問題が重すぎた。軽い愚痴や世間話ならば喜んで聞くが、深刻すぎれば反応にも困るというものだ。

「せやけど、なんで言うてくれへんかったん!? 奥さんも子どももおるやなんて!」

 カルディナはわっと泣き出した。ラファーガが慌てて弁解するものの、焼石に水だ。

(隠し子――いえ、厳密には少し違うのかもしれませんが、ここで修羅場を展開されると辛いですね)

 ラファーガが言うには、何百年も生きるセフィーロの人間にとって、複数の家庭があるのは大して珍しいことではないそうだ。家という概念がこの国には根付いていないのか、婚姻関係を正式に結ぶこともなく、恋人関係の延長で家族を作り、子どもが巣立てば家庭が自然消滅することも多い。三国では考えられない常識だった。まさにカルチャーショックというものだろう。

(でも、困るんですよねぇ……もうすぐヒカルが来るでしょうし、そうしたらランティスも来ますし……)

 余計に修羅場が悪化するのでは、と危惧しているイーグルの心の内を知ってか知らずか、悪い意味でジャストなタイミングでランティスは現れた。

 イーグルの隣で騒いでいる二人を見て思うところがあったのだろう。第一声はあまり感じの良いものではなかった(感じの良い彼の声もまぁ聞くことはなかったが)。

「こんなところで何をしている」

 これがもし光だったなら。導師クレフなら、フェリオ王子なら――いや、ランティス以外なら誰でも良かったのだ。

 眠っているイーグルでも、ラファーガがカチンとくるのが分かった。この二人はとにかく相性が悪すぎる。カルディナは今この状態だし、自分も間に入って制止できるわけでもないので、イーグルは頭を抱えたくなった。

「お前には関係ないことだ。私と母を見捨てて国を出たお前などに!」

『え?』

 聞き捨てならない単語に、イーグルは一瞬思考が停止した。

「……すまない」

『え、否定しないんですか!?』

 ということはつまり。まさか、ラファーガのみならずランティスまで……!?

『ラファーガが貴方の息子なんて……一言くらい言ってくれてもいいじゃないですか!』

「おい、お前はさっきから何を言っている!? 起きろイーグル!」

『せめて奥さんくらい紹介してください……』

「何の話だ一体!?」

 夢でも見ているのだろうが、常に眠っている姿勢なものだから分かり辛くて敵わない。しかも、寝言の声が大きすぎる。

 いい加減起きろと体を揺さぶってみるが、体の機能は一切停止している彼の体を揺さぶって効果があるのかどうかは怪しいものだった。

「ラ、ランティス、ラファーガの父様だったのか……?」

「違う! ヒカル、こいつの言うことに耳を貸すな。忘れてくれ!」

「分かった! 皆には内緒にするね!」

「そういうことじゃない!」

 結局、イーグルが起きるまで誤解は解けなかったとか何とか。

 2015年12月25日UP