Polaris

犬と猫

「海、どうしたの?」

「え? あ…ううん、何でもないわ」

 久しぶりに遊びに来たら、友達の家には家族が増えていた。

 チリチリと小さな鈴を軽やかに鳴らして、首輪の代わりにリボンを巻いた子猫がリビングを冒険していた。

「あの子、可愛いでしょ? 子どもが産まれるって聞いて貰ってきたの」

 子猫は白い尻尾を振りながら、今はソファのクッションの中に潜り込もうとしていた。

「可愛いけど…でも、これで何匹目よ?」

 犬や猫を始め、金魚やインコもこの家にはいる。食べることはないように躾けてあるらしいが、その内人間の数より動物の数の方が多くなるのでは、と海は思ってしまった。

 言ってるそばから、黒い大型犬がのっそりと部屋に入ってきた。

(ああ、あの犬は前来た時もいたっけ)

 彼(確かオスだった)にはお気に入りの場所があるらしく、出窓からの日が差し込む暖かな場所に落ち着いた。

 昼寝を決め込んだその犬を見つけて、次の遊びを見つけたとばかりに子猫が寄ってくる。

 ミーミーと忙しなく鳴きながら、子猫は「遊んで」と言うかのように犬の耳を引っ張ったり顔を舐めたりし始める。

「…止めてあげなくていいの?」

 犬はじっとして動かないが、その内、怒って一口にぱくりといってしまいそうだ。しかし、友人はというとちょっと笑っただけだった。

「何だかんだで、ああやって寄って来てもらうのが好きみたいよ」

 ほら、と友人が言った先を見ると、次は違う猫がやってきた。輝く毛並みで優雅に歩いてくる。首輪についている、シルバーの小さなプレートがきらりと光っていた。

 子猫は、やはり犬よりは猫のほうがいいのか、猫が「にゃー」と一声かけると、ちょこちょことそちらへ寄っていった。猫はというと、まるで自分の子どもにするかのようにぺろぺろと毛繕いをしてやる。

 そんな様子を、今まで動かなかった犬が凝視していた。

「ね」

「…そうみたいね」

 微笑ましい光景、と見えるものの、何か引っかかる。それが海には気になって仕方がない。

 しかし、その疑問が解消される暇もなく。

 お互いに頬を舐めていた猫達は身なりが整ったと満足したのか、ぴったり並んで部屋を出て行った。

 そしてその後を、のそりのそりと犬が追いかけていったのである。

「海さん…どうかなさったんですか?」

「…な、何でもないわ」

「でもウミ、あなた、さっきから落ち着かないようだけど」

 そわそわとしている様子は、誰が見ても何かあるようにしか見えない。風もプレセアも、心配した様子で海を見つめていた。

「へ、平気…じゃないわ!やっぱり行ってくる!」

 もう我慢できない!と、海は勢いよく立ち上がったかと思うと、木陰に固まっていた三人の所へ猛スピードで駆けていった。

「う、海ちゃん?」

「気になって仕方ないのよ!今日は私達のところに居なさい!」

 そうして、なぜか怒られてしょんぼりしている光を連れて、海は戻ってきた。

「はあー…」

 気を静めようと紅茶をぐいっと飲み干し、海は光を隣に座らせた。

「海さん、落ち着かれました?」

「…何とかね」

「? 何の話してるんだ?」

 ぴょこりと猫耳でも出しそうな光の頭を撫でながら、海は「何でもないのよ」と誤魔化した。

 ぽかんと突っ立っている、木陰のランティスとイーグルからは目を逸らしながら。

 2008年07月06日UP