その向こう側 1
「…ダメかな?」
光の提案に、部屋に集まっていた一同の口がぽっかり開いた。
「駄目かどうかと言う前に、それが可能かどうかだろう」
クレフが咳払いをして言う。光の言動が突拍子もないのは今に始まったことではないが、彼も苦労が絶えない。
「信じる心が重要なんですから、試してみる価値はあると思いますよ?」
イーグルがそう言って光に微笑みかける。不安がっていた光も、それでにこっと笑った。
事の発端は、光の何気なく言った一言からだった。
『兄様達に、ランティスとイーグルを紹介してあげたいな』
別に、結婚が前提でお付き合いだとか両親に会う前の前哨戦にだとか、そういう意味は光の言葉には全く含まれてはいないのだが、そう言われると二人はやはり反応してしまう。二人ともポーカーフェイスなので、鈍感な光には余計に反応がわかりづらいのだが。
元々、剣の腕前の話になって家の話になり、そこに行き着いたのだが、この光の言葉でそれはそっちのけになった。
『じゃあ、こっちから出向きましょう』
にっこり笑うイーグルの言葉を、どうせまた冗談だろう程度にしかランティスは捉えなかったのだが、本気か冗談かわからないイーグルの言動、今回は本気だった。
『本当に!?』
光の笑顔が一段とはじける。
『信じる心が力になる世界です。それに、ヒカル達が来れるんですから、その逆もやってみれば可能かもしれませんよ?』
『イーグ…』
『ランティスは今回はお留守番です。世渡り上手な人が行かないと。異世界ですしね』
先を越された。そう思い、ランティスはいつもより輪をかけて暗くなった。
そんな感じで話は盛り上がり、さっそくクレフに相談しに来たわけである。
クレフが駄目だと言ったなら、きっと二人も諦めるだろうと、ランティスは内心期待していたが。
「…ヒカルとイーグルなら、絶対に無理だとは言い切れないな」
期待はあっさり裏切られた。自分の師匠ももう歳だと、心の中で溜め息をつく。
「しかし、もし失敗してしまったらどうする?」
「僕は、ヒカルとさえ一緒なら、どこででも生きていけますから」
ほえほえしながらさらりと言ってのける。傍で聞いていたアスコットは、自分にはないその度胸にちょっぴり感動した。
「でも、確かに試してほしいことではあるな」
フェリオが口を挟む。彼も、風とのことで、向こうの世界の両親に会わなければと考えているのだろう。会わずとも将来は決まっているようなものだが、まぁ会えた方がいい。
「まぁ、心が誰よりも強い二人だ。折角だから試してみろ」
どうせ止めても無駄なのはわかっている、と言いたげなクレフは、少し頭が痛むことは気にしないことにした。自分の弟子から暗い空気が流れてくることは、もっと考えないことにしておいた。
2006年05月21日UP