その向こう側 2
「なんというか、案外あっさりしてますね」
「というか、あっさり成功しすぎですわ」
「まぁ、柱候補だった二人だしねぇ」
四人で東京タワーへと戻ってきた。本当に、何事もなく、あっさりと。
いつもは3人で手を繋ぐところを今回は四人で繋いできたのだが、一人男が入るだけで妙にちぐはぐな感じがして、海は恥ずかしく感じてすぐに輪を切った。
「ていうか、もっとこう、感動みたいなモンはないの?」
落ち着いた様子で辺りを眺めているイーグルに、海は少しがっかりした。マイペースな人間の驚くところが見てみたかったのだ。
「私達がセフィーロへ行った時は、感動というより驚愕といった感じでしたけど」
「だって、気がついたら空から急降下してたじゃない」
感動どころの話ではない。
「ところで、これからぼくはどうすればいいんでしょう?」
「今は夏休みですけれど、それぞれ家に帰らなければ家の者が心配しますわ」
夏休みというものがイーグルにはよくわからないが、とりあえず休みなのだということはわかった。
「私や海さんの家に行っても仕方ありませんし、光さんについていってください」
そう言って、先程から口を開いていない光を見ると、いたく感動したらしく、嬉しそうな顔をイーグルに向けていた。
「それでは、光の所にご厄介になりましょう。光、いいですか?」
自分の世界に入った光にマイペースに話をするイーグル。そんな二人を見て、海と風は小さく溜め息をついた。
「ていうか、光、大丈夫かしら?」
「お兄様がいらっしゃるそうですから、とりあえず身の安全は保障されてますけど」
「うーん…」
「まぁ、心配しても始まりませんし。また光さんの家へ様子を見に行きましょう」
「ていうか、風、嬉しそうねぇ…」
眼鏡の向こうから嬉しさが滲み出ている。フェリオのことを考えているのだろうが、海は少しだけ一人身の自分が寂しくなった。
「やっぱりイーグルってすごいな!」
「そうですか?」
光はすっかり感動してしまっている。イーグル自身の心の強さの問題かどうかは、今のところはっきりしないのだが。
「というか、道はこっちでいいんですか?」
「うん、もうすぐだよ!」
夕日で赤く染まった空の下を、てくてく歩く。夕飯の匂いが漂ってくる住宅街を、二人は並んで歩いていた。
「トウキョウタワーへ来た時は、オートザムに似ている感じがしましたけど、ここはどちらかというとファーレンに似てますね」
木造の日本家屋は、ファーレンのような色鮮やかさはないが、こういった建物はオートザムにはない。今回、服はとりあえずマントも羽織らず軽装で来ているのだが、これが周りと比べても違和感がないので意外だった。イーグル本人は、寝巻きで歩き回っているような感じでなんだか妙に感じるのだが。
「ここだよ」
周りと比べても比較的広い建物の門の前で二人は止まった。
「立派な建物ですねぇ」
『獅堂流剣道場』の文字はイーグルには読めないが、他の家と比べるとやはり違っているということだけはわかる。
「ただいまー!」
二人で門をくぐると、すぐにお出迎えしてくれたのは大きな犬の鳴き声だった。
「閃光、ただいま」
だいじょうぶだよー、と言って閃光の頭を撫でる。イーグルを見て、戸惑った風に唸っているのだ。威嚇と脅えが半々といった感じだったが、飼い主の様子を見て少し安心したらしく、ぎこちなくお座りした。
「こっちだよ」
ガラガラと家の扉を開けながら光が手招きする。日本家屋に「へー」とか「ほー」とか関心しながらも、イーグルは光に続いて家の敷居を跨いだ。
「おかえり光! もうすぐ飯…」
「ただいま、翔兄様」
いつものようににこにこしている自分の妹の隣に、見たことのない男が、こちらもにこにこしながら立っている。普通の男なら、想像力豊かなこの三男は、勝手に妹の恋人だと決め付けて追い出しにかかるのだろうが、2人揃ってのにこにこ電波に思考が上手くついていかない。
「…誰?」
翔の問いに、光は一瞬きょとんとすると、もう一度笑って。
「イーグルだよ」
「初めまして、イーグル・ビジョンです。お世話になります」
いや、それだけかよ。と翔は思ったが、いつになく嬉しそうな妹とよくわからない男はマイペースに物事を進めていく。
「靴脱いでね」
「木の床ですか。変わってますねぇ」
そんなやりとりをしながら翔の横を通り過ぎていった。
「覚兄様、ただいま」
台所を覗くと、そこには長男が立っていた。エプロンをつけて鍋の前に立っている。
「おかえり。さっき父さんから電話があってな、関東内に来てるらしい。光が帰ってくる少し前に母さんが出かけていった」
「そっか。じゃあ母様はしばらくいないんだね」
のんびりとそこまで家族の会話をしてから、覚はイーグルに視線を向けた。
「こんにちは」
イーグルがにこりと笑う。
「こんにちは」
こちらもマイペースに言葉を返した。
2006年05月21日UP