その向こう側 8
初めて魔法騎士以外がセフィーロと地球を行き来してから数日が経った。
成功はしたものの、「重要な職につく人間が多く城を離れると困る」というクレフの意見から、特別の場合以外は行き来はしないことになり、結局は今までどおりに魔法騎士がセフィーロを訪れている。
そして、今日も彼女達が訪れるのを、各々が待っていた。
「もうすぐですね」
イーグルはベッドから起き上がり、絡まった髪を手櫛で梳かす。
ベッド脇の椅子にはランティスが腰掛けていたが、ふと、サイドテーブルに置かれたものが彼の目に入る。
「…それは」
書いてある文字が、セフィーロのものでもオートザムのものでもない、本のようなもの。しかし本にしては薄っぺらく、これと同じようなものを一度見たことがあった。テストが近いと言っていた光が持っていたところを…。
「これは、秘密です」
東京では誰に注目されることもないただの大学ノートを、ランティスの手が触れる前にさっと取り上げた。
秘密と言われて、ランティスの表情が明らかに変わる。光を挟むと親友も何もあったものではない。
その表情を楽しむようににっこり笑うと、イーグルは秘密という言葉は撤回して、親切に教えてくれた。
「ヒカルとの交換日記ですよ」
「コウカンニッキ…?」
「ランティスも日記くらい…つけませんか。これは、仲良くなるために、本来は自分一人で書く日記を二人で交互に書いて読み合うものなんです。手紙より気軽にしたもの、という感じですか。ヒカルとお付き合いするには、ヒカルの兄上3人を負かした後、これから始める必要があるそうですよ」
「…誰がそんなことを決めた」
「ヒカルの兄上です。ヒカルも知ってます」
内容を理解できているかはわからないが。お付き合いが所謂「お付き合い」だと認識できていないだろう、彼女は。しかし、イーグルには今はそんなこと関係なかった。
「…トウキョウの文字は―――」
「知りません。ヒカルに教えてもらいます。というわけで、今日は席を外してもらえると嬉しいんですが」
イーグルの笑顔はいつものことだが、その笑顔が勝ち誇っているように見える。まるで「勝ったも同然」とでも言うように。
「……」
「ぜひ、外してください」
むしろ外せ、と言っている。
ランティスはランティスで、誰が外すか、と言っている。
無言でそんなやりとりを交わしているのも、鈍感な人からすれば、ただの「仲良しさん」に見えるだろう。明らかに漂っている威圧感に気づかなければ。
もちろん、そんなに鈍感な人間は数えるほどしかいないのだが。
「光、行きましょ」
「なんで?」
その数少ない人間は、海によって部屋の外へと追い出された。
「今は何もお聞きにならないで。私達と一緒にお茶会に参加しましょう」
風がそっと扉を閉める。
あの出来事の後だから、と思って二人は珍しく光と一緒にここへ来たのだが、どうやら二人の考えどおりだったらしい。
触らぬ神に祟りなし。あの中に光が入っていけば、どんな騒動が起こるか。
「ねぇ、なんで?」
不思議そうに二人を見上げる光をやや強引に連れ出しながら、海と風は盛大な溜め息をついた。
窓に映るのは、どことなく雲行きが怪しい空。珍しく嵐になるかもしれない。
柱制度がなくなっても、恋愛が争いを引き起こすことは避けられないようだった。
2006年06月17日UP
思った以上にダラダラ長くなってしまいました。
(TV版のこともあったし)普通にランティスが好きなんだろうと思ってたんで、最終回の「ランティスとイーグル」発言は当時かなりびっくりした記憶が。TV版と原作での光の違いはリボンのワンポイントだけじゃないですね。と思う。