その向こう側2 6
食後のちょっとしたお茶の時間。居間には奇妙なメンバーが集まっていた。獅堂家の父と母に、子どもは覚と翔。客は海と風だけだ。他の人々はどうしたのかというと、光は緊張の糸が切れたのかぐっすり眠ってしまい、その兄の優はアルバイトへ、異世界の人々は疲れで眠ってしまった。人ごみに慣れていないせいだろう。
折角の団欒にお邪魔していいのかと迷った海と風だったが、呼ばれたのでここに座っている。
獅堂家の母が湯のみに緑茶を注いで全員に渡し終えた頃、父がゆっくりと口を開いた。
「試合の直前に、何か言おうとしていらっしゃったようだが」
風が、こくりと頷く。
「でも、私より先に、光さんがおっしゃいましたわ」
試合の勝敗に関係なく、父親が家に留まること…というよりも、もしまた負けてしまっても、修行の旅には出ないということ。
「私も、光と風が言わなかったら言おうと思ってたわ。何も言わなくても、光は自分のせいだって思ってるもの、きっと」
「何を?」
翔がお茶請けのせんべいを歯で砕く。その音が妙に大きく部屋に響いた。この広い敷地内で、音がしているのはこの部屋の中だけなのかもしれない。
「光さんに負けたから、修行の旅に出たのだと…光さんから伺いました。詳しい経緯は知りませんが、『父親がいなくなって家族の皆が困った。その困ったことの原因は自分だ』と、光さんでなくてもそう考えるのが普通なのではないですか?」
低い声で、父が唸る。
「でも、光がわざと負けようとしなかったのは、きっと光が強くなったからなのよ。自分を犠牲にしても、それで悲しむ人がいるって知ってるから」
エメロード姫とザガートのこと。それに、イーグルとの柱の試練でのことも。皆が幸せになるのは難しいことだけれど、誰かを犠牲にしてしまえば皆が幸せになることは有り得ないと、教えてくれた。
「光は友人に恵まれたな」
茶にもせんべいにも手をつけず、じっと座ったままだった覚が笑みを零した。
「御兄弟にも恵まれたと思いますわ。それに、御両親にも」
風の笑顔に、海も頷く。あんなに純粋に育ったのは、この家のおかげといっていいだろう。ランティス辺りは、少し困ってしまうくらいだが。
「それより」
しみじみとした雰囲気をキレイに消し去る母の声に、全員が注目する。
「結婚相手の方は、どこの国の方なの?」
「ねえ、アスコット…」
「な、何?」
突然話しかけられて、びしっと体を硬直させてしまう。そんなアスコットの反応には気付かずに、海は顎に細い指を当てて考え込んでいる。
「セフィーロだと、夫婦になるには何をすればいいの?」
結婚がないなら、何か別のことをするのかしら? という素朴な疑問だったのだが、質問された相手は心臓をバクバクさせて返事をよこしてこない。
ちなみに、道場に大きな食卓を持ってきて全員で朝食の最中である。アスコットの想い人は全然関係ない人々にもバレていた。当の想い人は相変わらず気付いてはくれないが。
「セフィーロでは特に何もしないな。村や仲間内でお祝い事をするくらいで。その内、他国を見習って手続きみたいなものを設けようかと思ってるんだが」
アスコットの代わりに、セフィーロの王子様が答えてくれる。
「チキュウでは何かするのか?」
地球のことも参考にしようとしているらしい。そのフェリオに答えたのは風だった。
「地球では結婚しなければ、正式な夫婦と認められません。結婚するのと夫婦になるのとは、同義語ですわ」
適切な風の説明を聞いて、関心を示しているフェリオの隣でイーグルがむせた。
「だ、大丈夫?」
慣れない日本の味が彼の体に悪影響だったのかと、光が心配そうな顔をするが、心配してくれていることは気にもとめず、逆にイーグルが質問する。
「ヒカル…あなた、ケッコンがどういう意味だって言いましたっけ?」
「好きな人とずっと一緒にいるって約束すること…だったかな?」
ちょっと、意味違いません? と言いたいイーグルだが、むせたために喉が痛くて声が出てこない。
「間違ってはいないけどね…」
ぽつりと海が呟くが、その声は溜め息交じりだった。
結婚の意味が間違って伝わっていたことに少なからず動揺したイーグルだが、ランティスはというと、特に驚いた様子は見せずに黙って座っている。ただ、動きは止まっていたが。
「? どうかしたのか?」
自分が相手を誤解させていたことにもまだ気付かず、光には周囲の反応の意味が全くわかっていなかった。
もう一度東京を訪れたことが良かったのかどうなのか、光がセフィーロへ行くことについては口うるさく言われなくなったが、相変わらず過保護は過保護のままだった。
結婚の意味がわかっても、三人の関係が少しも変わらなかったように。
2006年10月20日UP
結局何が書きたかったのかわからなくなるくらいカオスですが、父親ネタも夏祭りでデートも両方やってみたかったんです。それだけなのかも。