その向こう側 4
「ひーかーるっ」
「うわっ」
振り下ろされた竹刀を慌てて手で受け止める。
「ぼーっとしてないで、早く着替えなさいよ? 置いてっちゃうから」
「ご、ごめん」
慌てて剣道着を脱ぎ始める。
竹刀を振り下ろしてきた友人は、とっくに制服に着替え終えていた。
夏休みなので、午前中だけの部活動のために学校へ来ていたのだが、家のほうが心配でついぼんやりしてしまうのだ。下の兄二人は、あいかわらずイーグルを警戒している。普段優しい兄がどうしてああなのか、光にはよくわからなかった。
「光、最近ちょっと変わったわね」
「そう?」
ぼさぼさになった三つ編みを直してくれている友人が、面白そうにクスクス笑う。
「リボン、今日も変えてるじゃない」
今までは毎日同じだった赤いリボンが、最近はしょっちゅう色や形を変える。今日は光沢のある白いリボンだった。
「最近はおヒマな時間が少ないみたいだし。ちなみに、この後のご予定は?」
「え、えっと、その」
「そうよねぇ。友達とお昼食べるのは学校でもできるけど、カレシとはそうもいかないもんね」
「ち、違うよ!」
真っ赤になって否定したところで、説得力はない。その上、上ずった大きな声をあげたものだから、他の友人まで寄ってきてしまった。
「ね、なんの話?」
「光のカレシかぁ…前から気になってたのよねぇ。どんな人?」
「なんでもないったら!」
実際、イーグルのこともランティスのことも、そういう風な感覚で見たことはなかった。出会いが出会いだっただけに、もっと特別な関係に思えるのだ。海や風がただの友達ではないように。
「じゃあ、今日はなんで急いで家に帰るの?」
「家にお客様が来てるのっ」
胸のリボンを結び、荷物を乱暴にカバンに押し込む。
「じゃ、じゃあ、先に帰るね!」
「待って。門まで一緒に行こうよ」
更衣室に残っていた他の部員にあいさつしながら、半分走るように部屋を出た。
2006年05月27日UP